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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

インターハイ予選が終わる頃から、走ると
息切れがした。
たった100mを流すだけで、全身から力が
抜けた。それからグラウンドには行かなくなった。
また走れなくなる…
再発が脳裏をよぎった。
最初は、息切れがするようなことをしない
ようにした。でも夏休みに入ると徐々に疲れ
やすくなった。塾にも行かず、家にいた。
勉強も手を抜くようになった。
大事な時期に僕は何もかも、やる気をなくして
しまった。
季節だけが、過ぎていく。
僕だけ、動けずにいる。

「母さん」
「ん?なに?大学のこと?」
「…病院行ってくる」
「え…?流星、あんた…」
「大丈夫、ひとりで行ける」

最近、のぞみに会っていない。
会いたくないのを、勉強のせいにして、それが
ばれてケンカになった。
ひとりで考えたかった。

『悩んでもいいけど、迷うなよ。』

その言葉が胸に響いた。
野嶋とも、夏休みに入ってから会っていない。
もう、会わないつもりだ。
要に言われて目が覚めたわけじゃない。
元々いけないのを知りながらしていたことだ。
僕は野嶋やのぞみに偉そうな口を叩いたくせに
最低な人間だ。
自転車に乗ると、苦しくなる。
僕は久しぶりにバスに乗って病院に向かった。

あの大きな橋を渡って、のぞみを迎えに行った
夏休みが、昨日のことみたいだ。
いつの間にか7年も経っていて、その間に僕は
何もかも変わってしまった。
変わったかな…?
最初からこんな人間だったんじゃないのかな。
だから神様は僕に試練を与える。
僕が越えられないような、試練。
僕はその全ての選択を間違えた。…間違えた。

「あれ、小野塚くん」

途中のバス停から紺野が乗ってきた。

「久しぶり。夏期講習来ないしどうしたの?」
「…うん。ちょっとね」
「ふーん」

紺野は僕の前の席に座った。

「勉強、しなきゃ。抜かされちゃうよ」
「うん…」
「ごはん、食べなきゃ痩せちゃうよ」
「…うん」
「笑わなきゃ、笑い方忘れちゃうよ」
「もう、忘れたよ」

暑さで、遠くのアスファルトが揺れていた。
ゆらゆらと、まるで僕を焼き殺す準備でも
しているかのように。
いっそのこと、焼き尽くしてほしい。
全部、なかったことにしてほしい。
初めて、僕は死にたいと思った。

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