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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

下から見上げた野嶋の目は、涙でいっぱい
だった。

「負けたくなかった…」

わかるよ、とは言えなかった。
僕は数少ない試合でもほとんど勝っていたし、
軽々しく野嶋の気持ちをわかるとは
言いたくなかった。

「…仕方ないよ」
「うん…」

野嶋は僕の隣に座った。ひとりぶんの広さが
二人の間にあった。

「悔しさをバネにとか、次があるからとか、おれ言えない」

野嶋は無言で頷いた。

「その試合はそのときだけなんだよな。次はもう、違う試合だもんな。悔しさはバネにはならないし。そんなの早く忘れて早く練習したいよな。…練習が足りなかったってことだもんな」
「はい…」
「いつも、試合に負けたら泣いたりするの?」
「はい」
「泣いても始まらない。…泣く暇があるなら練習しろよ」

あ。女の子にはキツい言い方だったかな。
正直であることが傷つける…って
こういうことなのか。

「桐野先輩は、『あんなは頑張ったよ、一生懸命やったよ、次頑張ればいい』って言うんです。でも私、本当にそうかなって。頑張っても無理なことも、あるんじゃないかって」

自分の限界を決めているやつの言い方。
僕は好きじゃない。
僕は人から才能があるとか天才だとか
言われた時があった。
でもそれは相応の努力をした結果だ。
努力すれば、限界はもっと上に伸ばすことが
できる。

「桐野になぐさめてもらってたの?」
「はい」
「もう、桐野はしてくれないの?」
「…はい」
「だから、おれになぐさめて欲しいの?」
「違います…」

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