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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

ここ数日は平和に毎日が過ぎていった。
なのに今日は、勉強に集中できなくて、音楽を
聴いているとのぞみから電話がかかってきた。
空の満月を見ろと言う。
のぞみはよく、星がきれいだとか、虹が
出たとか、そういうことで電話をしてくる。
それもやたらとうれしそうに。
昨日、この部屋でまたのぞみとそんな雰囲気に
なりかけた。のぞみからだった。
僕は不思議と、前みたいな焦りはなく、うまく
のぞみに気づかれないように帰せたと思う。
だけど僕は、いつも以上に自分の気持ちを
さらすのぞみにうしろめたくて、
眠気のせいにして電話を切った。
のぞみと、話したくなかった。

最近では、のぞみも塾に行くようになり、
なかなか放課後は会えずにいた。
中間テストが終わり、インターハイ予選が
始まった日。どの部も公欠で試合に出掛け、
グラウンドは閑散としていた。
少しだけ走り終えて部室で着替えていると、
野嶋が試合から戻ってきた。

「おかえり。どうだった?」
「…負けました。全部、ダメ」
「そっか。残念」
「先輩…ちょっと待ってて下さい」

それだけ言うと、野嶋は部室を出て行った。
僕はジャージから制服に着替えおわって、
部室に飾られたトロフィーや盾を眺めていた。
最近のものは、なかった。

「先輩…」
「おう、なんかあった…の?」

振り返ると、制服に着替えて髪を下ろした
野嶋がいた。
グラウンド以外でめったに会わないためか、
見慣れない姿に驚いた。
僕はベンチに腰かけて再び、何かあった?と
聞いた。沈黙が苦しかった。
いつも見下ろす位置にいる野嶋が、
僕の前に立つと、目線が僕よりも高かった。

「…悔しい」

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