
20年 あなたと歩いた時間
第12章 君が生きた日々
「今日の1問目、流星あてるからな」
渡り廊下で空を見ていると、予鈴まであと
10分あるのに、川辺先生が来た。
通りすがりに不穏な一言を放った。
今日の1問目って昨日の最後のやつ?!
誰も解けなかった、あれ?!
「ちょ、ちょ、先生。ダメ、あれわかんなかったから!」
「解けない問題なんて、ないんだよ。グラウンド見てる暇あるんなら考えろ」
先生は数学特論の教科書で僕の頭をはたいた。
ちくしょー、なんでお見通しだよ。
僕は、渡り廊下と同じ幅で見えるグラウンドを
見ていた。空を見ていたつもりが、
グラウンドに目が行った。
もうすぐインターハイ予選が始まる。
だから邪魔するわけにはいかなくて、僕は最近
陸上部に顔を出していない。
予選敗退したら、3年生は事実上引退だ。
僕は引退を経験したことがない。
何か区切りみたいなものに憧れる。
やり切った感、みたいなもの。
あれから、野嶋とは話していない。2年生とは
校舎も違うから、見かけることもない。
たぶん、間違えたよな。あの状況で抱きしめて
本当のこと言っちゃいけなかったよな。
だってあれだけ言われたら、気になるだろ?!
桐野も、野嶋も!
「あ、流星。おはよ」
「おう。朝練?」
「うん。最後だからな」
桐野がグラウンドから南側の階段を
上がってきた。渡り廊下の向こう、
のぞみと同じC組だ。
「…ここから、幅やってるの見えるんだよな」
手摺で腕立てみたいな動きをしながら、
桐野は言った。
僕は言いたいことが分かってしまい、
二の句を継げずにいた。
ダメだ、桐野を直視できない。
「…遠慮しなくていいからさ、走りにこいよ。みんな、流星の走り見て学ぶこと多いんだ」
桐野はタオルを振って教室に入った。
…遠慮、か。
砂場はいつの間にかトンボと呼ばれる、
グラウンド整備の道具できれいにならされていた。小柄な野嶋が、自分の背丈よりも長い
トンボをひきずって用具室にむかって
歩いていた。
(正直に答えるところが、桐野先輩を傷つけてるんです)
自分が正直だなんて思ったことない。
むしろ自分勝手でわがままだ。
渡り廊下で空を見ていると、予鈴まであと
10分あるのに、川辺先生が来た。
通りすがりに不穏な一言を放った。
今日の1問目って昨日の最後のやつ?!
誰も解けなかった、あれ?!
「ちょ、ちょ、先生。ダメ、あれわかんなかったから!」
「解けない問題なんて、ないんだよ。グラウンド見てる暇あるんなら考えろ」
先生は数学特論の教科書で僕の頭をはたいた。
ちくしょー、なんでお見通しだよ。
僕は、渡り廊下と同じ幅で見えるグラウンドを
見ていた。空を見ていたつもりが、
グラウンドに目が行った。
もうすぐインターハイ予選が始まる。
だから邪魔するわけにはいかなくて、僕は最近
陸上部に顔を出していない。
予選敗退したら、3年生は事実上引退だ。
僕は引退を経験したことがない。
何か区切りみたいなものに憧れる。
やり切った感、みたいなもの。
あれから、野嶋とは話していない。2年生とは
校舎も違うから、見かけることもない。
たぶん、間違えたよな。あの状況で抱きしめて
本当のこと言っちゃいけなかったよな。
だってあれだけ言われたら、気になるだろ?!
桐野も、野嶋も!
「あ、流星。おはよ」
「おう。朝練?」
「うん。最後だからな」
桐野がグラウンドから南側の階段を
上がってきた。渡り廊下の向こう、
のぞみと同じC組だ。
「…ここから、幅やってるの見えるんだよな」
手摺で腕立てみたいな動きをしながら、
桐野は言った。
僕は言いたいことが分かってしまい、
二の句を継げずにいた。
ダメだ、桐野を直視できない。
「…遠慮しなくていいからさ、走りにこいよ。みんな、流星の走り見て学ぶこと多いんだ」
桐野はタオルを振って教室に入った。
…遠慮、か。
砂場はいつの間にかトンボと呼ばれる、
グラウンド整備の道具できれいにならされていた。小柄な野嶋が、自分の背丈よりも長い
トンボをひきずって用具室にむかって
歩いていた。
(正直に答えるところが、桐野先輩を傷つけてるんです)
自分が正直だなんて思ったことない。
むしろ自分勝手でわがままだ。
