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20年 あなたと歩いた時間

第2章 16歳

「夕方には帰ってくるから、今日は私が夕飯作るね。行ってきます!」

玄関を開けて、空を見上げると
積乱雲がこれでもかと言うくらいに
天高くそびえている。
朝から途切れることのない蝉の鳴き声に
少しうんざりしながらも私は、
いつも通りお弁当を持って出かける。
高校一年生の夏休み。
何があるかは想像もつかないし、
何もないかもしれないのに、
その言葉の持つ響きが、
私を浮き足立たせる。
私はこの夏、漠然と進むべき道が
見えてきたような気がしているのだ。
それはいつも目標に向かって走り続ける
流星の影響かもしれない。
私達四人は同じ高校を受験した。
とは言っても流星は理数科、
真緒は英語科、私と要は普通科で
偏差値レベルに差はあるのだけど。

「暑っ!どっか入ろう、のぞみ」

五分遅れて流星が待ち合わせの
駅前に着いた。
額から汗を流して肩で息をしている。

「走ってこなくてもいいのに。バイトお疲れ様」

ついさっきコンビニに寄って買った
スポーツドリンクを、
流星の頬に当てた。

「つめてっ!」
「気持ちいいでしょ?」
「…うん」

ニヤッと笑うと流星は
ペットボトルをつかんだ。
のけ反らせた喉を上下させて、
勢いよくそれを流し込むと、
ぷはっと息をはいた。
すっかり伸びた髪が、
汗の流れる額に張りついていた。
私はカバンからタオルを出して
その汗を拭ってあげた。

「あぁ、ありがと」
「本屋でも行く?」
「行く行く。過去問見たいんだった。今日夏季講習のあと、またバイトなんだ」

そう言うと、流星はさっさと歩き出した。

「バイト詰めすぎじゃないの?」
「そうか?」

流星は早朝から昼過ぎまで
コンビニでバイトしている。
その後夜までは塾の夏季講習を受け、
それが終わると居酒屋のバイト。
流星の父親が経営する会社が
倒産してからもうすぐ二年になる。

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