テキストサイズ

20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

いつもより早くグラウンドを使える今日、
僕も少しは陸上部に貢献したくてライン引きを
始めた。
うまく引くのはなかなか難しいが、中学で
陸上部に入ったときは、毎日毎日ライン引き
ばかりしていた。懐かしい。
あの頃よりも、目線がかなり上がって、
引いたラインがよく見えた。
我ながらよく引けている。

「小野塚先輩。今日練習休みですよ」
「え、あ、そうなんだ?」

僕がグラウンドに一番乗りなのではなかった。
頭のてっぺんで髪をまとめて、少し
不機嫌そうに野嶋が立っていた。
手にはスパイクをぶら下げていた。

「…スパイク。どっか練習行くの?」
「休みっていうか、市営グラウンド。予約してあるんです」
「外で練習か。じゃあラインいらなかったな」
「ちょっと…走ってみてもいいですか」

僕はどうぞ、と言ってトラックのはしに
よけた。
野嶋は軽くストレッチとジョグをしてから
ラインの端に立った。

「スターター、いる?」
「…お願いします」
「タイムは?」
「ふ…ちょっと流すだけなんですけど」
「あ。そっか。じゃあ…いつでもいいよ」

野嶋はクラウチングスタートの姿勢をとった。
小さな顔をあげて、まっすぐ前を見た。
細い首が、伸びた。
on your mark、 setに続いて手を叩いて
スタートの合図を出すと、弾かれたように
野嶋は走り出した。
速い…。
フォームがきれいだ。軸もブレていないし
ピッチも速い。
風みたいに、走る。
僕は100m先にいる野嶋を見ていた。
いま走った同じ場所を僕も走る。
野嶋に追い付いた。

「…速いな。やってた?」

野嶋は首を横に振った。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ