テキストサイズ

20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

「…病気だよ。膝下を残すか残さないか、転移してるかしてないか…再発するか、しないか…そんなとこでずっと怯えてた。誰にも言えなかった。同情されるのとか一番いやだったし、けどあの時、桐野のこととか正直頭になかった」
「そうだったんだ…」
「今は一応大丈夫なんだけど。奇跡。ミラクルなんだよ」

僕は膝を叩いてみせた。
そういう顔されんのが嫌だから、誰にも
言わなかったんだ。

「怖かっただろ」

心臓がぎゅっと掴まれたみたいに、
僕は動けなかった。
目の前の国道を、車が走り抜けていく。
その音が聞こえなくなって、車だけが
スロー再生みたいに、横切っていく。

怖かった…すごく。怖かったよ。

「…ごめんな。『勝ち逃げかよ』とか言って」
「いや…あのさ、あの時おまえ…」
「泣いたよ。泣いた。突然理由も言わずに目標がなくなるなんて、泣くしかねーじゃん」
「悪かったな」
「でもおれ、陸上やってたらいつかまた流星と走れると思ってた。だから流星が市高受けるって知って死ぬ気で勉強して、短距離続けて。そしたら、な?」
「なんだよ。…何でだよ。何でそんな、おまえおれのこと…」
「好きなんだよ。小野塚流星の走りにホレてんの!」
「…マジかよ」
「マジマジ」
「…ありがとう」
「おれ、あんなのことすっげー好きだったんだ。フラれてタイム落ちるくらい。けど、そのあんなも、流星のこと好きになってさ。悔しいけどおれ、女見る目あるなと思って。おれが好きな奴を好きになるあんなが、好きなんだよ」
「ややこしくて、わかんね」
「いーんだよ」

僕は、あの時の悔しさとか怖さとか、
そういった負の気持ちなんて全部、誰にも
わかってもらえないと思っていた。
でも、桐野に話していたら、きっと同じくらい
泣いてくれただろう。
そうすれば、何かが変わっていたかな。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ