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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

珍しく、陸上部で最後まで残っていた。
タイムをとったり、フォームのチェックを
頼まれたり。
本当の部員みたいに皆僕を頼ってくれた。

「流星。一緒に帰ろうぜ」
「おう。ちょっと待って。ピン1本なくした」
「えー!暗いじゃん、明日にしろよ」
「ピン1本無駄にできねーんだよ。ちょ、探して、一緒に」

僕と桐野は暗くなったグラウンドを
這いつくばってスパイクのピンを探した。

「中学んときも、こんなのよくやってたよな」
「えー?そうだっけ」
「おれ、初めて買ったスパイク、その日にピンなくしてさ、流星が見つけてくれたじゃん」
「覚えてねーよ」

5年も前のことだ。おおざっぱな僕は
細かいことはあまり覚えていない。

「あん時、おれ、もういいよって言ったけど流星は『諦めんな』って言ったんだ。ピン1本も諦めないやつって、どんなやつだよ、って。それって、きっちり結果出すってことだったんだよな」
「あ、あった!」

僕は光るピンを見つけて拾い上げた。
自転車に乗って学校をでる頃、8時を過ぎ
いた。
腹は減ったし汗まみれで汚かったけれど、
楽しかった。
切れかけた街灯の下を笑いながら走っていく。
僕も桐野も色々あるけれど、今は、笑っていられる。

「ばか、ランスパークいくらだと思ってんだよ。あの時のおれの小遣い、1500円だぞ」
「だよな、あの時みんな必死だったよな」
「二中スピリット、たたき込まれて未だに抜け出せねーもん」
「おれも!」
「『豆腐の角に頭ぶつけて死ぬ気で走れ
』だもんな」
「死なねーってよ」
「絶対死ねない」

ふっと沈黙になった。
きっと、二人とも同じところで思考が停止
したんだ。

「…なんで、辞めた?」

赤信号で、桐野がぼそっとつぶやいた。

「病気」
「え?」

のぞみにさえ言ったことのなかった、僕が
陸上を辞めた理由。

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