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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

医学部受ける、とさらっと言うと
姉ちゃん以外の箸が止まった。国公立でも
結構な学費がかかるのと、それ以上に現役で
合格することの難しさを両親は知っている。
去年一年、受験生の親だったのだから。

「あんた、本気?」
「マジマジ」
「だめよ」「反対だな」
「なんで?」
「とにかく、反対」
「なんだよそれ。真っ当な理由、ねーんだろ。無理だと思ってんだろ!」

そんな感じで、ただでさえ口数の少ない両親が
全くしゃべらないから、小野塚家はここ数日、
姉ちゃんのひとりごとだけが響いている。

「…そんなんで医学部目指すのやめるかっての」
「はは。流星らしいな。どっちにしても、受験に親のハンコなんて要らないからな」
「おれ、絶対医者になるんだ。医者…っていうか、研究者かな…どっちにしても先ずは医学部なんだよ」
「いけるよ、流星なら」
「行くよ…あ、もうこんな時間だ。先生、ありがと」
「おう。また明日な」

のぞみと待ち合わせている駐輪場に走った。今日は、久しぶりに一緒に帰れる。

「流星ーっ!」

あ。夏服。
半袖のブラウスから出た白くて細い腕を振って
僕の名を呼ぶ。
その姿が、今はただ、いとおしくて眩しくて
僕は目を細めてしまう。

「のぞみ!ごめん、待った?」
「大丈夫。今日どうする?中間の勉強する?」
「じゃあうちくる?」
「うん」

そんな他愛もない会話の中に、僕は
探してしまう。のぞみを意識し始めた頃に
感じていた、緊張感を。

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