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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

さっき、野嶋に告られたことを話しても、
桐野は何も言わなかった。
…分からないな。何考えてんだか。
僕は、自転車に乗って学校を出た。
グラウンド沿いの道をまわって、
砂場が見える場所で自転車を止めて目を凝らすと
小さい野嶋が軽々と空に投げ出された。
まるで弾むボールのように、着地してもまた
跳びそうに見えた。
黙々と助走と跳躍を繰り返し、ときどき
他の部員に意見を聞いてフォームの確認を
する。

(小野塚先輩に、好きな人がいても諦めたくないんです)

さっき言われたことを思い出す。
『諦めたくない』
そのひとことで、野嶋のことを分かった
つもりにはなりなくないけれど。
野嶋は、僕に付き合ってほしいとは
言わなかった。
ただ僕に伝えた。そして、伝わった。
それで、納得できるんだなと思うと、
少しうらやましかった。
そういう野嶋を好きな桐野を思い浮かべると
中学の頃の僕に勝ち逃げかよと言った桐野とは
違うんだなと、思った。

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