
20年 あなたと歩いた時間
第12章 君が生きた日々
練習用のジャージに『野嶋』と書いていて、
他の部員からは『あんな』と呼ばれているのを
聞いたことがあるから、名前は『野嶋あんな』
だということがわかった。
野嶋はいつもひとりでいた。
部活以外で見かけたときも、ひとりだった。
野嶋については、それだけしか知らなかった。
「あんな、流星のことが好きだったんだ?」
「…って言われた」
「そっか」
僕が陸上部で走るようになってから、
もうすぐ半年。
その間、野嶋と話したことがあるのは2、3回。
そーなの?それでどうやったら好きに
なるんだよ。女ってわかんねーよな、好きとか
好きじゃないとか、…っておれもそうか、と
笑って桐野は200の3本目を流しに行った。
目は笑っていなかった。
そんな桐野に、違和感を感じた。
「桐野ー!おれそろそろ帰る。じゃあな」
トラックの向こう側にいる桐野にむかって
叫ぶ。桐野は、帰るならカラーコーン、部室に
持って行ってと言い、また走り始めた。
僕がカラーコーンを重ねていると、開け放した
部室のドアから、マネージャーらしき女の子
たちの話し声が聞こえた。
「…桐野先輩、記録伸びないね」
「そうだね。あんなのことかな?」
「あー、相当落ち込んでたらしいね」
僕は重なったコーンを持ち上げようとしたが
思わず手を止めた。
「別れたんでしょ?あんな、好きな人ができたんだって」
「小野塚先輩でしょ。かなわないよね、かっこいいし頭もいいらしいよ」
「見た?あの100のタイム」
「見た見た!桐野先輩も平気なのかな」
「平気じゃないっしょ?タイム、伸びるどころか落ちてるもん」
「小野塚先輩に全部持ってかれちゃったね、かわいそうに」
「あ…」
マネージャーのうちのひとりが僕に気づいた。
やばいな。これ、どうするかな。
「お、小野塚先輩。今のはオフレコで!」
「…わかった。ごめん」
僕はカラーコーンを棚に戻して、かばんを
つかんで足早に部室を出た。
…桐野は野嶋と付き合っていて、フラれたって
ことか。で、その原因が僕…?
他の部員からは『あんな』と呼ばれているのを
聞いたことがあるから、名前は『野嶋あんな』
だということがわかった。
野嶋はいつもひとりでいた。
部活以外で見かけたときも、ひとりだった。
野嶋については、それだけしか知らなかった。
「あんな、流星のことが好きだったんだ?」
「…って言われた」
「そっか」
僕が陸上部で走るようになってから、
もうすぐ半年。
その間、野嶋と話したことがあるのは2、3回。
そーなの?それでどうやったら好きに
なるんだよ。女ってわかんねーよな、好きとか
好きじゃないとか、…っておれもそうか、と
笑って桐野は200の3本目を流しに行った。
目は笑っていなかった。
そんな桐野に、違和感を感じた。
「桐野ー!おれそろそろ帰る。じゃあな」
トラックの向こう側にいる桐野にむかって
叫ぶ。桐野は、帰るならカラーコーン、部室に
持って行ってと言い、また走り始めた。
僕がカラーコーンを重ねていると、開け放した
部室のドアから、マネージャーらしき女の子
たちの話し声が聞こえた。
「…桐野先輩、記録伸びないね」
「そうだね。あんなのことかな?」
「あー、相当落ち込んでたらしいね」
僕は重なったコーンを持ち上げようとしたが
思わず手を止めた。
「別れたんでしょ?あんな、好きな人ができたんだって」
「小野塚先輩でしょ。かなわないよね、かっこいいし頭もいいらしいよ」
「見た?あの100のタイム」
「見た見た!桐野先輩も平気なのかな」
「平気じゃないっしょ?タイム、伸びるどころか落ちてるもん」
「小野塚先輩に全部持ってかれちゃったね、かわいそうに」
「あ…」
マネージャーのうちのひとりが僕に気づいた。
やばいな。これ、どうするかな。
「お、小野塚先輩。今のはオフレコで!」
「…わかった。ごめん」
僕はカラーコーンを棚に戻して、かばんを
つかんで足早に部室を出た。
…桐野は野嶋と付き合っていて、フラれたって
ことか。で、その原因が僕…?
