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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

「あ、川辺…」
「なに、流星知ってんの?」
「ヤマセンの後輩。数学だよ」
「へー」

本当に市高に赴任してきたんだ。

「三年生の数学担当の川辺昌幸といいます。大学院を出たばかりで教師1年生ですが…えーと…数学のことなら、何でも聞いて下さい!!」

そこで体育館中に笑いが起こった。

「おもしれ。三年担当だってよ。理数科かな」

後ろの松井が話しかけてきた。

「理数科じゃねーかな。K大院だってよ。何とか予想、あいつならわかるんじゃない?」
「リーマン予想?まじか!」

松井の目が輝いた。…本当数学好きだな。
始業式が終わって、再びだらだらと教室に
戻る。しばらくするとヤマセンに続いて
川辺先生が教室に入ってきた。

「おーい、座れー!ピッチピチの若い副担、紹介するぞー」
「男じゃんかよ!ヤマセンそっち系だったのかよー!」
「んなわけないだろ!」

教室の後ろから何人かが残念がった。
川辺先生は笑いながら、教壇に立った。

「はじめまして。川辺昌幸といいます。…僕もここの理数科出身で、陸上部のキャプテンをしていました。だからもう、とにかく懐かしくて、あの頃に戻ったみたいで…いま本当に幸せです」

陸上部の、キャプテン…

「大学はK大の理学部、そのまま院に進みました。学生時代は塾講師のバイトもしていたし、進路指導の相談にも乗れると思います。…よろしくお願いします!」
「いいぞー!川辺っちー!」

拍手とともに、川辺先生はA組の男どもに
受け入れられた。
18歳になる年の春、僕は川辺先生に出会った。
両親以外で、初めて心から尊敬できた大人
だった。

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