
20年 あなたと歩いた時間
第12章 君が生きた日々
多分のぞみは、いつもの公園じゃない。
学校でも、川沿いでもない。
僕は自分の家を通りすぎ、そこから始まる
緩く長い坂道を自転車でのぼった。高台にある、僕らの街を一望できる場所。
忘れていた。
あの場所で、なにもかも忘れるくらい懸命に
走ったことを。
あの時の僕は、走ることに理由など
考えなかった。
(好きに、理由なんてある?)
確かそう言った。
あの頃は、何でもまっすぐに答えられた。
自分の気持ちをまっすぐに口にできたのは、
余計なことを考えていなかったからだ。
…いた。
僕が毎日過ごしたグラウンド。
14歳の僕が、まっすぐ前を見つめて走った
場所。
それを、のぞみはここで見ていた。
僕を、見守っていてくれた。
「のぞみ」
「ん?」
のぞみは、まるで僕がここに来ることが
わかっていたかのように、振り返った。
久しぶりに話すのに、こんなとき僕らの時間は
一瞬で縮まる。
西の空が、夕暮れと夜を曖昧にぼかし始めた。
「おれ、卒業したらこの街、出るかも」
ゆっくり振り返る君は、本当にきれいだ。
君を失うことや、君から離れることは
考えられない。
僕の人生で、君がいなかったのは、最初の
5ヶ月だけなんだ。
「ごめん。おれ、ちゃんと言えてなかった。おれ、医学部に行こうと思ってる」
「お医者さんになるの?」
「うん。うち、中学のときあんなんなっただろ。ずっと考えてたんだ。絶対食いっぱぐれない仕事に就こうって。のぞみといつか家族を作ったら、その家族を絶対幸せにしたいから。おれ、走ることも、のぞみのことも好きだ。将来も全部、あきらめたくない」
僕の、未来だ。
「走るのを辞めて、本当は悔やしかった。走りたい気持ちを、あんな形でのぞみにぶつけて…最悪だよな。でも、走りたいなら走ればいいって、のぞみが気づかせてくれた。したいこと、しようって。全部、しようって」
僕は、どんなときも手を抜きたくない。
全力で生きていたい。
「…夏休みに、医学部の先生の講演、聞いたんだ。それでおれ、再生医療を勉強したい。その先生がいる大学に行く」
その先生が、のぞみのおばさんの
主治医だったことは言わなかった。
なぜ、再生医療なのかも。
「…流星…ありがとう…話してくれて」
「ここで、言いたかった。のぞみと育った街を見渡せるここで」
学校でも、川沿いでもない。
僕は自分の家を通りすぎ、そこから始まる
緩く長い坂道を自転車でのぼった。高台にある、僕らの街を一望できる場所。
忘れていた。
あの場所で、なにもかも忘れるくらい懸命に
走ったことを。
あの時の僕は、走ることに理由など
考えなかった。
(好きに、理由なんてある?)
確かそう言った。
あの頃は、何でもまっすぐに答えられた。
自分の気持ちをまっすぐに口にできたのは、
余計なことを考えていなかったからだ。
…いた。
僕が毎日過ごしたグラウンド。
14歳の僕が、まっすぐ前を見つめて走った
場所。
それを、のぞみはここで見ていた。
僕を、見守っていてくれた。
「のぞみ」
「ん?」
のぞみは、まるで僕がここに来ることが
わかっていたかのように、振り返った。
久しぶりに話すのに、こんなとき僕らの時間は
一瞬で縮まる。
西の空が、夕暮れと夜を曖昧にぼかし始めた。
「おれ、卒業したらこの街、出るかも」
ゆっくり振り返る君は、本当にきれいだ。
君を失うことや、君から離れることは
考えられない。
僕の人生で、君がいなかったのは、最初の
5ヶ月だけなんだ。
「ごめん。おれ、ちゃんと言えてなかった。おれ、医学部に行こうと思ってる」
「お医者さんになるの?」
「うん。うち、中学のときあんなんなっただろ。ずっと考えてたんだ。絶対食いっぱぐれない仕事に就こうって。のぞみといつか家族を作ったら、その家族を絶対幸せにしたいから。おれ、走ることも、のぞみのことも好きだ。将来も全部、あきらめたくない」
僕の、未来だ。
「走るのを辞めて、本当は悔やしかった。走りたい気持ちを、あんな形でのぞみにぶつけて…最悪だよな。でも、走りたいなら走ればいいって、のぞみが気づかせてくれた。したいこと、しようって。全部、しようって」
僕は、どんなときも手を抜きたくない。
全力で生きていたい。
「…夏休みに、医学部の先生の講演、聞いたんだ。それでおれ、再生医療を勉強したい。その先生がいる大学に行く」
その先生が、のぞみのおばさんの
主治医だったことは言わなかった。
なぜ、再生医療なのかも。
「…流星…ありがとう…話してくれて」
「ここで、言いたかった。のぞみと育った街を見渡せるここで」
