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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

「あのさ…」
「…はい」
「本っっ当におまえドあほだな」

え、今まで『バカ』だったじゃん。
『ドあほ』?
のぞみと僕のことを心配した要が、ついに
しびれを切らして説教してやると僕の家に
乗り込んできた。

「言葉が全然足りねーんだよ。うん、全然足りない」

冬休み前にのぞみに言ったことを、できるだけ
忠実に再現しろと言われて、する僕も僕だ。

「おまえ、何のために大学行くんだよ。何のためにいいとこ就職したいんだよ」
「なんでそんなこと、要に言わなきゃなんねーんだよ」
「そこだよ」
「え?」
「そこ、言わなきゃ伝わんねーよ?」

医学部行って医者になって、のぞみが
抱えることになるかも知れない病気を治す
…は、さすがに重すぎる。

「はっきり言わなきゃ、女は納得しないんだよ」
「そうか…」
「のぞみを、幸せにしたいんだろ?」

それだ。

「サンキュ、要。おまえやっぱすげーな」
「え、もう解決?」
「今からのぞみんとこ行ってくる!テキトーにくつろいでて」

のぞみが誤解したまま帰ってから、
自分ひとりで考えていても埒があかなかった。
時間がたちすぎて、話す機会を失っていた。
こんなときこそ、要に頼るのが一番だ。
僕のことを誰よりも知っている。
ほら、今だって。僕はもう、なにもかもうまく
行きそうな気がしてきた。

『お。流星くん。久しぶりだね。いま開けるよ』

のぞみの家のインターホンを鳴らすと、
いつも大抵のぞみの声が聞こえるが、
今日は違っていた。
がちゃ、と鍵が開いて中からおじさんが顔を
出した。
いつも思う。のぞみとは少しも似ていない。

「あの…のぞみ、いますか」
「散歩するって出ていったよ。最近多いから、てっきり流星くんと会ってるのかと思ってたよ」
「…行きそうなとこ、行ってみます!」

走り出そうとしたその時、のぞみのおじさんが
僕を呼び止めた。

「流星くん」
「はい…」
「ありがとう。いつも言いたいと思っていたよ」
「…はい!」

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