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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

「…なんで、なんでわざわざ『ああいうの、やめん?』って言うの?そんなん言われたら、私のこと嫌いになったのかと思う…そんなん言わんで、何となく離れて行ったらいいじゃないっ!」

わー…っとのぞみが声をあげて泣いた。

「泣くなよ!離れるなんか、できるはずねーだろ!嫌いになんか、ならん!絶対にならんっ!」

夏休みに入るまえ、川沿いで散歩するのぞみに
出くわした日、のぞみは僕が走り出す瞬間が
好きだったと言った。そんな話、
それまで一度もしたことがなかったのに。
それがきっかけになったわけじゃない。
でも、あれから気づけば、いつもグラウンドを
見ていた。
夏休み中も、塾の行き帰りにわざわざ学校の
そばを回り道した。
あの場所で『走る』。
『走れる』としたら。
いや、『走りたい』。
煮え切らない気持ちを抱えたまま、のぞみと
あんなふうになった。
走りたい欲求を、のぞみにぶつけていた。
のぞみをそんなことに利用しちゃいけないのは
わかっていたのに。
まだかすかに震える肩に、そっと手を置いた。
こんなやり方でしか、気持ちを伝えられない
自分が悔しい。

「のぞみ…」
「…」
「おれ、のぞみが好きだよ。だからのぞみのこと全部知りたい…けど、したら、のぞみでいっぱいになって、他のこと考えんよーになって、なって…」

伝わってくれ…

「…わかった。もう、流星の邪魔しない」

違うって…

気づくと、のぞみが階段を降りていく足音が
聞こえた。


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