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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

「流星!」

グラウンドに行くと、もう桐野がストレッチを
していた。時計はまだ、7時を回ったところ
だった。

「昨日、流星の記録に興奮して寝られんかった、おれ!」
「うそ、おれ疲れてめっちゃ寝たよ。久しぶりに走って疲れた」
「また、走らないか?一緒に。って言ったって夏までだけどな…」

桐野の誘いはうれしかった。多分、
そう言ってくれると思っていた。僕が陸上部を
辞めるとき、一番引き留めてくれたのは
桐野だった。

(…勝ち逃げかよ)

最後に低くそうつぶやいた桐野が、
泣いていたのは、見て見ぬふりをした。

「もう、記録とかにこだわらんで。好きなときに好きなだけ走れよ。な?」
「ありがとう。桐野がいてよかった」
「うん」
「そういやさ、春から新しいコーチが来るんだ」
「へえ」

桐野は立ち上がると、ドリルの準備を始めた。
そうか。もう、部活は夏までなんだな。
それが終わったら、受験一色の生活が始まる。

「桐野、おまえ大学どうすんのー」
「おれー?」

カラーコーンを等間隔に並べながら、
どうするかな、と答えた。

「明確な目標とか、夢とか、ないんだ。けど大学でも陸上はしたい。…いけるとこ、受けるんじゃねーかな」
「そうか」

もしかしたら、桐野も苦しいことがあるかも
しれない。要だってあんなふうにしてるけど、
たまに『おれ長男だから』とか言ったりする。
みんなそれぞれ、口には出さなくても
何かあるんだ。
そういうモヤモヤしたもの。
その気持ちだけ、自分の後ろに置いていこう。

「っしゃー!走るか!」
「おう!」

やばい。めっちゃテンションあがる。
何でおれ、走るの辞めたんだっけな。

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