
20年 あなたと歩いた時間
第12章 君が生きた日々
補習は二学期の終業式で終わったが、
僕は陸上部が休みになる30日まで
グラウンドに通った。
「流星!流星?」
「んー?なに、母さん」
部員が練習を始める9時より前に走るため、
僕はまだ薄暗いうちから起き出して学校に行く
準備をしていた。
「…どうしたの、あんたどっか行くの?こんな早くから。塾?」
「ちょっと、走ろうかなと思って」
「好きだねえ。走るの」
それでも母さんは、練習の合間に食べる
おにぎりを作ってくれた。
中学の頃、弁当の他に持たせてくれた、
具がいっぱい入ったおにぎり。
「好きなこと、しといで。できるうちにね」
「…うん。ありがと」
明るくなり始めた道を、自転車で走った。
きっと母さんだって、僕と同じくらい怖いに
違いない。
だけど、それでも背中を押してくれる。
いつの間にか、身長は抜いたけど、
母さんの存在は大きい。
僕が県大会で一位をとった時、母さんは
そんなに喜んではくれなかった。
でも、膝に病気が見つかって、陸上を
辞めざるをえなくなった時、誰よりも肩を
落としてくれた。
そして、県営競技場に刻まれた僕の記録と
名前を何度も見に行っていると姉ちゃんから
聞いた。
母さんはいつも、一番の理解者であった。
『一位 桜台二中、小野塚流星。記録、11秒00』
あの日表彰台の一番高い場所から聞いた
自分の名前。
誰もいない川沿いを走りながら、僕は唯一
自分が認められた栄光を思い出していた。
…楽しかった。
悩むことも、迷うことも、
誰かを傷つけることも
そんな全てに対して鈍感だった、あの頃。
ただほんの少し先の未来を目指して、
誰よりも早くそこに足を踏み入れることだけを
考えていた。
今に絶望しているわけじゃない。
ただ、苦しいことが、たくさんある。
そんな毎日の中で僕をすくいあげてくれる
存在がある。大切にしたい。
だけど、うまく行くことばかりではない。
でも走ることを逃げには、したくない。
今だけ。
今だけ、楽しかった頃を思い出したい。
僕は陸上部が休みになる30日まで
グラウンドに通った。
「流星!流星?」
「んー?なに、母さん」
部員が練習を始める9時より前に走るため、
僕はまだ薄暗いうちから起き出して学校に行く
準備をしていた。
「…どうしたの、あんたどっか行くの?こんな早くから。塾?」
「ちょっと、走ろうかなと思って」
「好きだねえ。走るの」
それでも母さんは、練習の合間に食べる
おにぎりを作ってくれた。
中学の頃、弁当の他に持たせてくれた、
具がいっぱい入ったおにぎり。
「好きなこと、しといで。できるうちにね」
「…うん。ありがと」
明るくなり始めた道を、自転車で走った。
きっと母さんだって、僕と同じくらい怖いに
違いない。
だけど、それでも背中を押してくれる。
いつの間にか、身長は抜いたけど、
母さんの存在は大きい。
僕が県大会で一位をとった時、母さんは
そんなに喜んではくれなかった。
でも、膝に病気が見つかって、陸上を
辞めざるをえなくなった時、誰よりも肩を
落としてくれた。
そして、県営競技場に刻まれた僕の記録と
名前を何度も見に行っていると姉ちゃんから
聞いた。
母さんはいつも、一番の理解者であった。
『一位 桜台二中、小野塚流星。記録、11秒00』
あの日表彰台の一番高い場所から聞いた
自分の名前。
誰もいない川沿いを走りながら、僕は唯一
自分が認められた栄光を思い出していた。
…楽しかった。
悩むことも、迷うことも、
誰かを傷つけることも
そんな全てに対して鈍感だった、あの頃。
ただほんの少し先の未来を目指して、
誰よりも早くそこに足を踏み入れることだけを
考えていた。
今に絶望しているわけじゃない。
ただ、苦しいことが、たくさんある。
そんな毎日の中で僕をすくいあげてくれる
存在がある。大切にしたい。
だけど、うまく行くことばかりではない。
でも走ることを逃げには、したくない。
今だけ。
今だけ、楽しかった頃を思い出したい。
