
20年 あなたと歩いた時間
第12章 君が生きた日々
グラウンドの南の端では、陸上部の4継が
バトンパスの練習をしていた。
年明けの駅伝大会に出る部員は、外周を
何周もしていた。
幅跳びの砂場を通りすぎ、駐輪場のフェンスの
近くまで来ると、スタートダッシュの練習を
していた桐野が僕に気づいた。
「流星。どうした?」
桐野は同じ中学で一緒に走った仲間だった。
陸上部の中では一番気が合った。
「あのさ、スタブロ貸して?」
走りたかった。
低い位置からまっすぐ前を見据えて、
十数秒先の、未来に。
「いいけど…珍しいな。あ、ジャージ着る?部室にあるけど」
「いや、これでいい。スパイクは持ってきた」
「何だよ、走る気満々じゃん」
「まあな」
桐野は笑った。笑うと目尻に皺ができた。
昔から、そうだ。
「やるか、久しぶりに」
「うん。やるか」
桐野は後輩にストップウォッチを手渡した。
位置について、という桐野の声に続いて
ピッと短くホイッスルが鳴った。
僕は0.01秒の世界を走る。
腕を後ろに振って、空気中を泳ぐ。
陸上部の練習を見るたび、走りたかった。
でも怖かった。
やっとのことで追いやったあの膝の痛みに
僕の全てを奪われてたまるか。
でも僕はどこかで知っていた。
いつか、どんなにもがいても、
…奪われることを。
それなら、せめて、それまでは。
走れるうちに、走りたい!
「11秒02…!小野塚先輩…やっぱスゴいっすね!」
「マジで?…そんなタイムでた?」
「はい!ほらっ」
後輩が目の前にタイムを掲げた。
走ってきた桐野が、ちょ、マジかよ流星!
おまえ!と言って僕に飛びかかってきた。
「あっぶね!てか、おれまだ走れんじゃん」
「走れる走れる!なんで辞めたんだよ」
…いやな自分を、僕はまたひとつ、捨てた。
「流星。大晦日と3が日以外は、練習してるからさ」
「…ん?」
帰ろうとした僕に、桐野が声をかけた。
「いつでも走りにこいよ。今みたいに」
「…ありがとう。けど、他のやつらに…」
「キャプテン、おれだからさ。何も言わせるかよ!」
「桐野…」
「おれ、やっぱり流星が目標だわ、悔しいけど」
桐野は目尻に皺を作って、な!と言った。
バトンパスの練習をしていた。
年明けの駅伝大会に出る部員は、外周を
何周もしていた。
幅跳びの砂場を通りすぎ、駐輪場のフェンスの
近くまで来ると、スタートダッシュの練習を
していた桐野が僕に気づいた。
「流星。どうした?」
桐野は同じ中学で一緒に走った仲間だった。
陸上部の中では一番気が合った。
「あのさ、スタブロ貸して?」
走りたかった。
低い位置からまっすぐ前を見据えて、
十数秒先の、未来に。
「いいけど…珍しいな。あ、ジャージ着る?部室にあるけど」
「いや、これでいい。スパイクは持ってきた」
「何だよ、走る気満々じゃん」
「まあな」
桐野は笑った。笑うと目尻に皺ができた。
昔から、そうだ。
「やるか、久しぶりに」
「うん。やるか」
桐野は後輩にストップウォッチを手渡した。
位置について、という桐野の声に続いて
ピッと短くホイッスルが鳴った。
僕は0.01秒の世界を走る。
腕を後ろに振って、空気中を泳ぐ。
陸上部の練習を見るたび、走りたかった。
でも怖かった。
やっとのことで追いやったあの膝の痛みに
僕の全てを奪われてたまるか。
でも僕はどこかで知っていた。
いつか、どんなにもがいても、
…奪われることを。
それなら、せめて、それまでは。
走れるうちに、走りたい!
「11秒02…!小野塚先輩…やっぱスゴいっすね!」
「マジで?…そんなタイムでた?」
「はい!ほらっ」
後輩が目の前にタイムを掲げた。
走ってきた桐野が、ちょ、マジかよ流星!
おまえ!と言って僕に飛びかかってきた。
「あっぶね!てか、おれまだ走れんじゃん」
「走れる走れる!なんで辞めたんだよ」
…いやな自分を、僕はまたひとつ、捨てた。
「流星。大晦日と3が日以外は、練習してるからさ」
「…ん?」
帰ろうとした僕に、桐野が声をかけた。
「いつでも走りにこいよ。今みたいに」
「…ありがとう。けど、他のやつらに…」
「キャプテン、おれだからさ。何も言わせるかよ!」
「桐野…」
「おれ、やっぱり流星が目標だわ、悔しいけど」
桐野は目尻に皺を作って、な!と言った。
