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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

「りゅーせー。あんたご飯…」
「るせえな!…ノックするのとドア開けるのが同時じゃ意味ねーだろっていつも言ってるだろ!!」
「あ、ごめん…」

自分でも意外なほど、何でもないことに
キレていた。
いま帰ってきたのか、制服のままの姉ちゃんが
びっくりしている。

「…何?なんか用?」
「お母さん、遅くなるみたいだからご飯…まあいいわ。私作るから」

姉ちゃんが部屋を出ていこうとした。

「あっ、あのさ、姉ちゃん…」
「ん?」
「いや、何でもない…夕飯…おれが作るよ」

僕は聞く相手が違うことに気づいた。
勉強一筋、女子校育ちの姉ちゃんに普通の
女心がわかるわけがない。

「いいや。流星、なんかイライラしてるし」

ばたん、とドアが閉まるとすぐに階段を
降りていく足音がした。
床に脱ぎっぱなしだった紺色のセーターを
拾って丁寧に畳んだ。
のぞみとお揃いの、何とかっていう女子高生に
人気のブランドのやつだ。
数時間まえ、これと同じものを脱がせた。
何度もそうしてきたのに、今日は最初から
違っていた。
僕だけかも知れないけれど、何となく
…何の根拠もなく、最後までいきそうな気が
していた。
のぞみも同じだと思っていた。
セーターをクローゼットに仕舞うために
立ち上がると、ベッドのシーツが目に入った。
それを握るのぞみの手を思い出した。
相当きつく握っていたのか、くっきり皺が
残っていた。
どうしてあの時、僕はのぞみが
『感じて』いると思ったのだろう。
勘違いだったかもしれないのに。
のぞみは静かに微動だにせず、
耐えていたのかもしれない。
広げた脚の間から顔を上げたとき、
見えたかもしれないのぞみの涙を、
僕は無視した…。

「っあー!!!!」
「うるさい!流星!」

間髪いれずに下の台所から姉ちゃんが叫んだ。
姉ちゃんには、絶対に女心も男心も
理解できないに決まっている。

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