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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

要に話して、気分が晴れたのかどうか
わからない。ただ、初めて言われた。
手抜きをしろ、と。
川沿いをこれでもかというほど、
のらりくらりと自転車を引いて歩く。
それすら、僕にとっては不本意だ。
子どもの頃から何事も一生懸命しろと言われて
育った。
後悔したくないなら人の3倍動けと言われた。
そんな両親やじいさんを見て育った。
まわりに振り回されても、自分の中に通った
芯を持ち続けたい。
僕に未来をくれるのは、僕しかいない。
どこで手を抜くってんだよ!

「あれー、流星」
「なんだ、また散歩か」

手を抜くことのできない、僕の大切な存在が
小走りで向かってきた。

「そう。ねえ、星がきれいだよ」
「ん?」

僕は空を見上げた。満天、とは行かないけれど
新月の夜空は、たくさんの星を抱えて
こぼすまいとしている。
のぞみはいつも、自然の美しさを僕に
教えてくれる。
僕が落ち込んだりやる気がないときに限って
空を見ろという。
西の空にひときわあかるく輝く木星が見えた。

「木星だね、あれ」
「うん」

こんなに数多の星があるというのに、いま僕と
のぞみは同じ星を見ていた。
何万光年も前から届く光を一緒に見ている。

「私、スタブロを蹴って走り出す流星が大好きだった。あ、またいやなことひとつ、過去に捨てた、って。そうして自分の好きなことだけで形成されていくんだって。ずっと見てたんだよ」
「急になんだよ?どうした?」
「…わかんない。思い出した」
「へんなの」
「要に、『手を抜け』って言われた」
「うん。よく言ってる。流星は全力すぎるって」
「のぞみもそう思う?」
「思う…けど、そうしないと流星じゃないんでしょ?そんなの、他人に言われたからって、変えられないよ」
「…うん」
「しんどくなったら、私が助けてあげるから。ね?」
「ありがとう…」

本当は、守りたい人達に、いつも守られて
いたんだ。
それに気づかせてくれたのは、のぞみだった。

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