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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

「小野塚くんのシャーペンと同じだよ。趣味合うね」

んなわけ、ないだろ。
僕は紺野を無視して日誌を書いた。

「仲良くしてるんだ、のぞみちゃんと」
「…ほっとけ」

紺野は開けたばかりの僕の弁当を
のぞきこみながら、吉田遅いなあ、と言った。
結果的に紺野と弁当を食べることになったが
仕方ない。

「あ。そだ。数Ⅲ持ってる?忘れちゃって、かして?」
「うん。うち6時間目だからすぐ返せよ」

僕は教科書を紺野に渡して、自分で作った
卵焼きを口に入れた。甘っ…
絶対帰ったら、姉ちゃんからクレームだな。

「小野塚くん、教科書の書き込みすごいね。
ノートとってる?」
「とってない」
「だろうね…あ、そういえば夏期講習、K医大の准教授が講演に来るらしいよ」
「え、十河正孝?」
「そんな名前だったかな。申し込んだ?」
「いや、まだ」

紺野は僕の教科書をパラパラめくりながら
言った。
夏期講習の受講料を全額払えるだけの
バイト料がまだ入っていない。
それから紺野はしばらく元クラスメイトと
話したりしていた。

「じゃあお借りしまーす」

紺野は弁当を片付けて、自分の教室に
帰っていった。
僕はその後ろ姿を不思議な感覚で見送った。
紺野とは、あんなことがあったのに
普通に話せている。
いや、あの直後はさすがにギクシャクして
いたが、クラスが分かれてからはむしろよく
話すかもしれない。

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