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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

「…これ、小野塚くんの?シャーペン…」

ほら、見てみろ。
あからさまに、おれのこと変人扱いしてる。
何度目だ、これ。
昨日の席替えで南向きの窓際を引いて
しまった。午後の授業が暑くてたまらない。
梅雨が明けて、蝉の声が体感温度を
上げている。

「あ、うん。シャーペンなくてさ、姉ちゃんの」
「…にしては、ずっとだよね?これ、あげようか?」
「いや、いやいやいや。ご心配なく、ありがとう」

隣の席になった吉田さんが、購買で
ノート5冊組を買ったらくれたという
100円のシャーペンを机に置いてくれた。
のぞみは相変わらず、僕のものを持ちたがり
セーターは返してもらえたが、シャーペンは
メロディちゃんのままだ。

「吉田!お弁当一緒に食べよ」
「ごめん、紺野。私いまから委員会なんだ」

日直日誌を書いていた僕は、聞き覚えのある
声に気づいて顔をあげた。

「あ、紺野か」
「うん、紺野デス」

隣のクラスから、紺野が弁当を持って
やってきた。紺野は吉田さんと仲がよかった。
吉田さんは、ちょっと行って来るねと言って
教室を出ていった。
僕はまた日誌に戻った。
いちいち授業内容をまとめて書かなければ
いけないのだ。放課後に書くのが大変だから授業が終わるごとに書く。
この、メロディちゃんが応援してくれる。

「お弁当食べないの?」
「食う。これ終わったら」

紺野は自分のクラスに戻る気配はない。

「…吉田さん、待ってんの?」
「どうしよ…食べよっかな、ここで」

紺野は弁当を広げ始めた。
視界にかぶりものウサギが入ってきた。
弁当箱が、メロディちゃんだ。


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