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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

「…み、のぞみ…んー…うわっっっ」

しまった。寝てた。
頭上には、満開の桜の間から太陽の光が
風に揺れていた。
そして仰向けの僕の上から、のぞみが顔を
のぞかせてその髪が僕の鼻をくすぐった。

「っくしゅ!」
「あははは。流星、寝言言ってた!」
「さっきまで、のぞみも寝てただろ!」
「ううん、寝たフリ。ずっと流星の寝顔見てたもん」

僕らは、浜まで続く川沿いいっぱいに
植えられた桜の木の下で、何をするでもなく
座って春を満喫していた。
そしてあまりの気持ちよさと、少し寝不足
だったことでいつの間にか眠っていた。
起き上がると、僕の肩からのぞみの紺色の
カーディガンが落ちた。
僕は無意識にそのカーディガンを引き寄せた


「気持ちよすぎて眠っちゃったね」
「…あー、ほんと。気持ちいいな…」
「あ…!」

その時、風向きが変わり、散った花びらが
空中で舞った。手に握っていた紙吹雪を
一斉に放ったようだった。
まぶしそうに目を細めて、のぞみは
その花びら達が川面に落ちて流されていくのを
見つめていた。
僕は桜ではなく、のぞみを見ていた。
気づかれないように、ずっと。
胸がしめつけられて苦しかった。
呼吸するのを忘れそうになるくらい、
僕はのぞみを見つめていた。
のぞみは、きれいだった。
その横顔に僕は手のひらをあて、
吸い寄せられるように唇を重ねた。
もう、緊張なんてしなかった。
その先も、いつか来るならその時でいいと
思った。
僕は、のぞみともっと色んな気持ちを
共有したいと思った。

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