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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

「やっぱり寒いね」
「六甲山て標高は1000メートルないよな…
じゃあ下よりは5、6℃は低いだろうな。今日昼間8℃だったから…うー!考えたくねー」

クリスマス。
のぞみのリクエストでこの山頂からの夜景を
見るために、僕らはケーブルカーに乗った。
二人とも、着込んで完全防備で来たのに、
それでも寒いものは寒い。
僕は早くのぞみが夜景に飽きてくれないかと
そればかり考えていた。

「きれいだね…私たち、あんなきれいな街で生まれ育ったんだね」

のぞみは、ケーブルカーを降りて
目の前にひらけたキラキラ輝く夜景を
目にした瞬間、文字通り言葉を失った。
何度も登ったことのあるこの山からの景色が
知っているものとは全く違っていたのだ。
誰もがきれいだと思い、恋人たちがこぞって
眺めてはロマンチックな雰囲気に浸る夜景が
僕にはただの電球の集まりにしか見えない。
高いところからの景色を見るなら、僕は断然
昼間の方が楽しいと思う。
だけど、一緒に見るのが恋人であるというだけで
そしてそれが夜というだけで、一気に
『夜景サイコー』になるわけだ。
そんな身も蓋もないことを考えているなんて
絶対に言えない。

「のぞみ」
「ん?」

僕はひっくり返した宝石箱のような夜景、
と言うのぞみを後ろから軽く抱きしめた。

「よくそんな表現できるな」
「え?どういう意味?」

のぞみは、抱きしめる僕の腕につかまった。

「おれとは全然違う感じ方だな、と思って」
「流星はただの電球の集まりと思ってるんでしょ」
「あ…バレた?」
「そんなんだったら、女の子に嫌われるよ」
「おれは要みたいなんじゃないからな。のぞみに嫌われなかったらそれでいい…んっ」

ふいに振り返って、のぞみは僕にキスをした。

「あったかいな…流星といると」

のぞみは、また夜景に視線を戻した。
僕は抱きしめる両手に力を入れた。

「帰ろう」

あの電球の集まりに。
僕らのこれまでの人生が、全部詰まったあの街に。

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