テキストサイズ

20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

「寒くなってきた。帰ろ」

僕は立ち上がって右手を差し出した。
その手をつかんで、のぞみが立ち上がり
制服のスカートを払った。

「ねぇ、うちでご飯食べてかない?今日お父さん、学会で遅くなるって」
「え?んー、どうしよっかな」

のぞみは余程一人になりたくない理由が
あるのか、僕を夕飯に誘った。
夏以来ののぞみの家は何も変わらず、
僕は仏壇に手を合わせたあと、所在なさげに
リビングを見渡していた。

「流星、家に電話しなくていい?」
「あ、する。電話借りるよ」

さっき川原であんな話をしたとは言え、
ふたりで家にいるというのは緊張する。
受話器をあげて番号を押すと、2コールで
姉ちゃんがでた。

「あ、おれ。今日晩めしいらないって母さんに言って。…うん。のぞみんち。…うん、え?何言ってんだよ。違うって。もう切るからな。じゃな」

姉ちゃんのやつ。
要っぽいあの性格、ほんとムカつく。

「さとみちゃん?」
「そう」

ひとつ上の姉ちゃんのことは、のぞみもよく
知っている。
私立の女子校に通っていたが倒産のことが
あって、僕らの通う公立中学に転校した。
そのあと、必死で勉強して僕が通う市高よりも
難関の県立女子高に合格した。
昔はケンカばかりしていたが、最近は勉強を
教えてもらったり教えたりするようになった。
僕は食卓で本でも読もうとかばんを開けた。

「お弁当箱洗ったげる。貸して」
「ん。ありがと」
「お弁当、さとみちゃんが作ってるの?」
「いや、おれ。姉ちゃんの分も」

僕は文字を追いながら答えた。
のぞみはひとりごとのように
流星、料理もできるんだ、と言った。

「親が忙しいと子どもは勝手に育つんだよ」
「なるほど」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ