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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

僕にとって、とてつもなく長かった夏休みの
後半がやっと終わった。
二学期に入って二週間。
のぞみからは何の連絡もなく、
偶然廊下で会った真緒には『最っ低ー』と
ささやかれ、僕はさらに地獄の底へと
突き落とされた気分だった。
真緒はきっと一部始終を知っているに
違いない。
しかし、どの一部始終なのかが謎だ。
のぞみと行った花火大会で、
のぞみの肩を抱いたりしたくせに
紺野と付き合うと言った『最っ低ー』な僕か
のぞみのことが好きなのに紺野で経験を
積もうとした『最っ低ー』な僕か。
おそらく、要の言う『頭いいくせにバカ』な僕
すなわち紺野を利用する僕のことだろう。
どっちも違うんだよ…誤解なんだって…。

「小野塚、どうした?」

振り返ると松井が僕を見上げていた。

「夏休み中にまたでかくなったな、おまえ」

ほい、と手渡された本のタイトルは『何もかもが嫌になったら読む本』だった。

「松井…」
「二学期に入って、小野塚が元気なさそうに見えたからさ」
「松井ぃー…」
「え、泣いてる?どうした?小野塚?」

こんなキャラじゃないんだけどさ、松井の優しさが染みただけだよ…
昨日は、学校の靴箱でのぞみとすれ違ったのに
おはよう、と挨拶だけで終わった。
さっきは、体育の授業が終わって
教室に戻ろうとした時、外を見ているのぞみに
気づいたから、グラウンドから笑顔で
のぞみの方を見上げたら、無視された。
『ごめん』
いや、違う。
『言い訳くらいさせろよ』
違う違う。
『本当の気持ちを聞いてほしい』
…だよな。
そんなモヤモヤをひきずったまま、
要と帰るために普通科棟に向かった。
普通科棟で、のぞみと鉢合わせたらちゃんと
言おう。
逃げられたら、つかまえてでも言おう。
そう考えながら教室を覗いて要を探していると
聞き慣れた声が廊下から聞こえた。
のぞみだった。

「要なら理科準備室だよ」

ちょ、待って。心の準備が。

「掃除当番?」
「うん」

んだよ、そのそっけない返事は。
のぞみは、僕のことなど微塵も気にならない
という感じでゴミを集めている。
視界にすら入っていないという感じだった。
僕は窓際に立ち、外を見る振りをしていたが
意識はのぞみの方に向いていた。

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