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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

「え?どうって?うーん…」

どうも思っていないに決まってる。
正直に答えられても困るし。

「やっぱりいいや。早く食えよ。行こう」
「あ、うん」

ふと、のぞみに貸した腕時計を見ると、
もう行かなければならない時間だった。
立ち上がるとのぞみが、待って、と
すぐ後ろをついてくる。
背中に感じるのぞみの気配にすら、僕の体温は
上昇する。
のぞみは、僕に塾で食べる弁当を
手渡してくれた。しかも、最高の笑顔で。

「明日の花火大会、一緒に行こう」
「うん!じゃあ真緒と要にも電話しとくね」
「いや、そうじゃなくて」
「ん?」
「二人で行こう」

その時、ふとのぞみの表情が曇ったように
見えた。でもすぐにまた元の笑顔に戻って答えた。

「流星と、初めてのデートだね」

のぞみは、忘れていなかったのだ。
僕は、のぞみが言っていた
『高校に合格したらしたいこと』を
思い出した。
のぞみはあの時、僕と二人で行ったことのない
場所に行きたいと言っていた。
でもあの春休み、僕は田舎に帰ると称して
検査入院していたので
どこにも連れていけなかった。
のぞみは、そのことを忘れていなかったのだ。
二人で出かけたいと思っていてくれた。
僕の中に、このままではいたくない気持ちが
どんどんふくらんでいくのを感じた。

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