テキストサイズ

20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

僕はあっけにとられる。
いつも、どこまで本気なのかわからない。
しつこいくらいつきまとうかと思えば、
いきなり引いてみたり。
無意識に駆け引きをしているんだ。

「のぞみちゃんのこと、好きなの、知ってる。でも好きすぎて自分を追い詰めてる。そんなの、つらいでしょ?」

気づかないふりをしている気持ちが、
一気に襲いかかってくる感じがした。
病気におびえながらバイトや勉強をして、
時々しめつけられるような、
虚しさや息苦しさを感じていることを。
何のために医者になりたいのか。
それはのぞみをのぞみの母さんと同じ病気で
失いたくないからで。
どうして弱音を吐けないのか。
それはのぞみを悲しませたくないからで。
僕の全てが、「のぞみ」が主語であることの
重みに、叫びたくなる事実に。

「今までどうやったら私のこと見てくれるかなって思ってたけど、違った。小野塚くんには真っ直ぐに言わなきゃいけないんだよね。…私、小野塚くんに好きになってもらいたいんじゃないの。好きって気持ちをあげたいの。小野塚くんの…」
「…ごめん、考える」

いつもより、真剣に言われている気がした。
長い髪が、その横顔を隠していて表情は
わからないけれど、隣で参考書をめくる紺野の
指が震えていた。細く、長い白い指が。
紺野の告白を遮るように、僕はとっさに
考えると言ってしまった。
…考える、って何を?
そんなことを言えば、期待させるだけかも
しれないのに。
でも僕には、わかる。
紺野は、僕がこの場から立ち去りたいことに
気づいている。
例えば、半袖の腕が触れるほどの距離を、
僕が一歩分あけたことや、
分厚い参考書を閉じた音で僕の苛立ちを
感じている。
保留にした返事から自分への可能性を
期待するのではなく、
完全に自分は好きな男の視界には
入っていないことに気づいている。
彼女の震える指がそれを雄弁に語っていた。

「…何で、おれなの?」
「わからない。…好きすぎて、痛い」
「痛くして、ごめん」

僕はそれしか言えなかった。
紺野のこと、嫌いなんじゃない。
最初は苦手だなと思っていたけれど、
いや、確かに今も苦手なんだけど。

「流星っ!」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ