
20年 あなたと歩いた時間
第11章 手探りの日々
一旦止んだ雨が再び降り始めた。
上に羽織ったパーカのフードをかぶって、
特に慌てることもなく家に向かって歩いた。
本当は、帰りたくない。
母さんと要の楽しそうな声が聞こえる
家になんて帰りたくない。
そんな子どもじみた考えを
持っていることなんて、
絶対誰にも知られたくない。
僕は、流星のことが不憫で仕方なかった。
好きだった女が今は、自分の親友と
どうにかなろうとしている。
いや、なってるかも知れないけど、
自分に置き換えてみたら、気が狂いそうに
なる。
そこで僕は気づいた。
僕には親友、なんていない。
そうか。
僕は流星の悔恨すら理解できないのか。
無意識に駅前の書店に入り、
医学書の棚に向かって歩いた。
大学の帰りに、試験のための医学書を探す。
重くてバカみたいに高くて、
せっかく国立大医学部に合格したのに、
授業料以外に教科書代でバイト料が
消えていく。
あーあ。けど、のぞみを幸せにするためには
仕方ない。
どうせなら勉強しまくって一流の医者に
なってやる。
流星はそう思っているんだ。
僕に気づかなくてもいい。
すれ違うだけでもいい。
だから、だから。
流星に会いたい。
この角を曲がれば、大学生の流星がいて…
「コウキ」
背伸びをして、棚に本を戻しながら
人の気配に気づいたのは、ゆいだった。
「…っす。医学書?」
「え?」
「医学書。見てた?」
ゆいの耳には、デコった補聴器がなかった。
だから僕は、いつものようにゆいの耳もとに
口を寄せてささやいた。
ゆいは、驚いたように僕から離れて
真っ赤になった。
「…ごめん」
僕は思わず笑顔になって、ゆいの顔を
のぞきこんだ。
ゆいは、僕がキスした耳たぶに手を当てて
じっと僕をみている。
持ってないの?と口を動かして、
ゆいの耳を軽く引っ張った。
首を振って小さな声で、持ってない、
と言いゆいはまた本棚の方に目線をやった。
上に羽織ったパーカのフードをかぶって、
特に慌てることもなく家に向かって歩いた。
本当は、帰りたくない。
母さんと要の楽しそうな声が聞こえる
家になんて帰りたくない。
そんな子どもじみた考えを
持っていることなんて、
絶対誰にも知られたくない。
僕は、流星のことが不憫で仕方なかった。
好きだった女が今は、自分の親友と
どうにかなろうとしている。
いや、なってるかも知れないけど、
自分に置き換えてみたら、気が狂いそうに
なる。
そこで僕は気づいた。
僕には親友、なんていない。
そうか。
僕は流星の悔恨すら理解できないのか。
無意識に駅前の書店に入り、
医学書の棚に向かって歩いた。
大学の帰りに、試験のための医学書を探す。
重くてバカみたいに高くて、
せっかく国立大医学部に合格したのに、
授業料以外に教科書代でバイト料が
消えていく。
あーあ。けど、のぞみを幸せにするためには
仕方ない。
どうせなら勉強しまくって一流の医者に
なってやる。
流星はそう思っているんだ。
僕に気づかなくてもいい。
すれ違うだけでもいい。
だから、だから。
流星に会いたい。
この角を曲がれば、大学生の流星がいて…
「コウキ」
背伸びをして、棚に本を戻しながら
人の気配に気づいたのは、ゆいだった。
「…っす。医学書?」
「え?」
「医学書。見てた?」
ゆいの耳には、デコった補聴器がなかった。
だから僕は、いつものようにゆいの耳もとに
口を寄せてささやいた。
ゆいは、驚いたように僕から離れて
真っ赤になった。
「…ごめん」
僕は思わず笑顔になって、ゆいの顔を
のぞきこんだ。
ゆいは、僕がキスした耳たぶに手を当てて
じっと僕をみている。
持ってないの?と口を動かして、
ゆいの耳を軽く引っ張った。
首を振って小さな声で、持ってない、
と言いゆいはまた本棚の方に目線をやった。
