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20年 あなたと歩いた時間

第11章 手探りの日々

昼前からずっと、自分の部屋にこもって
iPodに音楽をダウンロードしまくった。
それから本を読んだり、勉強していたら
母さんから、じーちゃんは今日友達と
約束があるから、うちでご飯食べなさい、
とメールがきた。
なんかな、今日はそんな気分じゃない。
本屋でも行って、適当にブラブラして
時間潰そうか、いや。やっぱ走ろう。
日が傾き始め、リビングの明かりがつくころ
僕は着替えて一階におりた。
いつの間にか来ていた要が、ソファに座って
テレビを見ていた。

「お、広輝。サッカー見ようぜ」
「いい。出掛けるから」

そのやり取りを聞いていた母さんが、
キッチンから口を挟んだ。

「もうすぐご飯できるよ?すぐ帰ってくるの?」
「走りに行くだけだから。帰ってきてから食べる」

昼間、僕が一方的にキレた件は、
母さんにとって何でもなかったみたいだ。
僕も時間が経つにつれてどうでもよくなった。
感情を上下させるのは、エネルギーの
無駄遣いだといつも思っているのに
最近よく振れる。しかも、マイナス方向。
カルシウムが不足しているのだろうか。
そういえば、喉が渇いている気がして
履きかけたランニングシューズを脱いで
キッチンに向かった。
要の後ろを通ったとき、ふといつもと違う
匂いがした。
シンクで洗い物をしている母さんの肩ごしに
立ててあるグラスに手を伸ばした時、
さっきの要の匂いが何なのかわかった。
そういうことか。
僕はまた不愉快な気分になった。
グラスに注いだ牛乳を一気に飲み干すと
誰の方も見ずに玄関を出た。

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