
妖魔滅伝・団右衛門!
第5章 悠久と団右衛門
八千代は嘉明に抱きついて縋ると、大粒の涙を零して訴えた。
「あの人が兄などと言われても、ぼくは覚えておりません! ぼくにとって今一番大切なのは、嘉明様のお側で働く事だけなんです! 大体、本当に兄弟かなんて分からないじゃないですか。分からないのに、嘉明様と離れるなんて、嫌です!!」
「八千代……」
しゃくりあげて号泣する八千代の背に、嘉明は腕を伸ばす。そしてなだめるように背を撫でながら、悠久に声を掛けた。
「……すまないが、たとえ今の話が本当でも、今の八千代をお前に預ける訳にはいかない。八千代もこの調子だし、私とて尽くしてくれる八千代をおいそれと渡したくはないのだ」
「しかし嘉明様、八千代はわしの!」
「――だから、私は悠久、お前を雇いたいと思うのだが」
その一言は、声を荒げる悠久も、泣きじゃくる八千代も黙らせ辺りを沈黙に変える。慌てるのは、団右衛門ただ一人だった。
「よ、嘉明! あんた何考えてんだ、もし話が全部嘘だったらどうすんだよ!」
だが嘉明は団右衛門に真っ直ぐな瞳を向けるだけで、弁明もない。
