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妖魔滅伝・団右衛門!

第5章 悠久と団右衛門

 
 今まで固い表情をしていた八千代の目尻に、涙が滲む。当時を思い出し、思うところがあったのだろう。悠久は八千代の背をさすり、優しく声を掛けた。

「すぐに迎えに行ってやれなくて、すまなかった。辛い思いをしたな、八千代……」

「……身内が見つからなかったので、私は八千代を小姓として側に置く事にした。それが志智を秀吉様から預かる私の義務であり、八千代を拾った責任だと思ったからだ。それ以降、八千代はよく働き、私に尽くしてくれた」

「お殿様にそのような厚遇……誠に感謝しております。あなた様がいなければ、八千代と再び巡り会う事はなかったでしょう」

 悠久は深々と頭を下げると、嘉明をじっと見つめる。八千代よりさらに色が薄く、黄土にも近い瞳は、敬愛を隠さず表していた。

「そのお殿様に不躾な頼みではあるのですが……八千代はようやく出会えた、ただ一人の肉親です。わしは八千代共に、二人で暮らしたいと考えています」

「つまり、八千代を返してほしいと――」

 嘉明が最後まで話し終わらない内に、八千代は立ち上がり叫び声を上げる。

「嫌です! ぼくは絶対に嫌ですっ!」
 

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