
妖魔滅伝・団右衛門!
第5章 悠久と団右衛門
さっそく二人は八千代と男の待つ部屋に向かい、襖を開ける。部屋では男が親しげに八千代へ声を掛けていたが、八千代は唇を噛み締め、男から目を逸らし黙り込んでいた。
「私は現在八千代を小姓として雇っている淡路志智の城主・加藤左馬助嘉明だ。さて、まずはお前の名から問おう」
嘉明は団右衛門を隣に置いて座ると、男に訊ねる。八千代と男、並んだ所を改めて見ると、醸し出す雰囲気や顔立ちは、確かに似ているようだった。
「はい、わしの名は悠久(ひさつね)と申します。京にある旅籠で、下働きをしております」
「八千代と兄弟であるという話は、真か?」
「勿論です。わしと八千代は、元々京の外れにある農村で、母と共に暮らしておりました。父は南蛮からやってきた宣教師でしたが、母を見初め共に暮らしていたそうです。しかし八千代が物心付かないうちに、父は亡くなりました」
「母は淡路が故郷と言っていなかったか?」
「はい、母は淡路の生まれで、父親……私達からすれば祖父に当たる権蔵に連れられ、京へ移り住んだと聞きました」
嘉明が団右衛門に目配せすると、今度は団右衛門が口を開く。
