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妖魔滅伝・団右衛門!

第5章 悠久と団右衛門

 
「ちょ、ちょっと待ってください! あなたがぼくの兄って……本当なんですか? 人違いではなくて……」

「当たり前だろ、何を言っているんだ八千代! まさか、この兄の顔を忘れたというのか?」

 男は顔を上げると八千代の肩を掴み、揺さぶる。しかし八千代は戸惑いを隠せず、目を伏せ頭を抱えた。

「八千代、よもや本当に忘れたのか……?」

 八千代と同じ色素の薄い男の瞳も、戸惑いに揺れる。すると先頭を馬で進んでいた嘉明が、引き返し馬から下りて二人の前に立った。

「その者は昔の記憶を失っていて、思い出したくても思い出せないのだ。兄というなら傷つくだろうが、許してやってほしい」

「殿!」

「その話、屋敷にて詳しく聞かせてもらおう」

「は……はい!」

 嘉明は頷くと再び馬に乗り、先を行く。名も知らぬ男を加え、一行は滞在先の屋敷へと辿り着いた。

 男は家臣達に促され、一室で八千代と共に待つ事になる。一方嘉明は、別室で団右衛門を呼び出して向き合っていた。

「まったく、オレの時といい今回といい、あんたはほいほいと人を拾っちまっていいのかよ? いつか変なのに当たるぞ」
 

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