
しのぶ
第7章 7・しのぶ
「俺の元へ、帰ってこい」
元康が耳元で囁くと、志信は首を横に振る。
「私を殺さないばかりか……そばに置いては、あなたを不幸にします。一揆の件に決着が着いても、家臣の皆は私が裏切り者と知っているのですよ。必ず、遺恨の種となります」
「じゃあ志信は、俺がいらないのか?」
そう突き放して元康自身を引き抜くと、志信の顔色が青くなる。以前の志信なら間違いなく、文句を言いながらも納得していたはずだ。
だが、心を返した今、志信はすぐに頷けなかった。理屈は分かっているのに、制御出来ない何かが志信を責め立てていた。
「……人になれ、しのぶ」
決壊は、元康の一言だった。志信はようやく頷き、涙を一筋零した。
「あなたの、お側にいたいです」
それだけ言えれば、もう元康は充分だった。想いに応えるよう元康はもう一度自身を志信の中へ突き入れ、壊れるくらい強く打ちつけた。
「あああっ!」
もはや忍びの意志は死に、志信の心は愛する相手を貪る事しか考えられずにいた。痛みも外聞も吹き飛び、自らを犯す肉棒を求め腰を振る。
