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しのぶ

第7章 7・しのぶ

 
「こんな時でも、あなたのその顔は私の欲をそそりますね。もう充分だと、思い出だけで生きていけると思うくらい、あなたの愛はいただいたはずなのに」

「……そんな愛、俺はあげられてない。むしろそれはお前が俺にくれたんじゃないか」

「いいえ、いただきましたよ。けれど、人間という生き物は欲深に出来ているようで。胸一杯でもなお、足りないと感じます」

 元康はその言葉に、目を見開く。今まで志信は、己を人間と言わず、忍びという生き物だとこだわり続けていた。その志信が、自分を人間だと語ったのだ。

「しの、それは」

「?」

 志信自身に自覚はないようで、元康の戸惑いに首を傾げる。それを見て、元康は自分が成すべき事を、ようやく見つけた気がした。

 元康は志信から離れると、落とした刀を拾う。

「……たとえ一揆に決着が着いても、それとお前の罪は別物だ。俺はやはり、お前を殺さなければならない。そう、お前は言うつもりなんだろう?」

「ええ、今まさにそう言おうとしておりました。秀秋様には申し訳ありませんが、それが私の贖罪です」
 

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