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「再会」と呼べる「出会い」

第20章 見送る人

余命1年と宣告された、
末期ガンの母を。

井崎の融資もあり、
治療については全力を尽くした。
海外で臓器移植を受ける
という選択肢もあったが、
母さんは断った。
かつて母を愛人にしていた現父親は
母の意思を尊重した。

母さんは自分がいたら
井崎を継ぐ俺のためにならないと
考えたらしい。
治らなくてもいいのだと、
考えたらしい。



「大丈夫」

次朗が柔らかく微笑む。

何だろう
理由も分からないまま、
安心してしまう。

知り合って間もないのに
どこか信じたくなってしまう。

そうか
ミカはこいつの
こういうところが好きだったんだ。

「よくわかんねーけど
頼ってみっか 」

「よく分かんないだろうけど
頼ってよ」


俺達はバスで病院へ向かった。

「押してもいい?」

停車ボタンを押したがる次朗の目は
子供みたいにキラキラしていた。

「いーよ」

病室は病院の最上階にある。
近くにあまり高い建物は無いので、
そこそこ眺めはいい。

「母さん」

「こんにちは」

「…あら」


母さんは起きて、窓の外を見ていた。
声が、また少し掠れた。

「友達の隠土次朗
母さんにどうしても会いたいって
言うから… 」

「はじめまして
優司君には仲良くしてもらってます」

「こちらこそ
…ありがとう
可愛い」

母さんは次朗から花を受け取ると
柔らかく笑った。

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