
溺れる愛
第4章 混沌
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『これで終わりかな?』
先生から受けた指示を一通りやり終えてからふぅと息を吐いた。
『じゃあ私はもう行くね』
そう声をかけて出て行こうとすると、
グイッと腕を引っ張られて耳元で囁かれる。
「誰が行っていいって言った?」
『…っ!』
ふっと耳に那津の吐息がかかり、全身がビクッと粟立つ。
「まだ行かせねーよ?芽依」
体育館倉庫の重いドアがギィーと音を立てて
那津の手によって閉められる。
また手に、背中に、冷や汗が流れる。
掴まれた手がいやに熱い。
(どうしよう…やだ…)
バタンと完全に閉まったところで、そのままドアに手を着いて立たされる。
「そのまま前向いてて」
『や…何する気…?』
那津が何をしてくるかわからないことが、余計に不安を煽って心臓が暴れ出す。
「いいから黙ってろ」
『ひゃっ…!』
耳の裏をペロッと舐められて、思わず変な声が出てしまう。
「色気のねぇ声」
クッと笑う那津の息が耳にかかる度に
足の指先から頭のてっぺんまでぞわっと何かが駆け抜ける。
(なんなの…これ…)
初めての感覚に、ただただ唇を噛み締めて堪えた。
