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溺れる愛

第4章 混沌





辿り着いた体育館倉庫には、体育の先生が待っていて
あれこれ指示を出すとすぐに職員室へ帰って行ってしまった。



じめじめした薄暗い体育館倉庫に那津と2人きり。


(…学校だし…大丈夫だよね…?)


少しの不安から自然と口数が減り、元々あまり喋らない那津と2人だと余計に会話が無くなる。


黙々と先生に言われた作業に集中していると
ちょっとした難関に差し掛かった。



(…届かない…。)


男子用のバレーのネットを張る位置が高すぎて、
芽依の身長では到底届かなかった。



(脚立ってあったっけ…?)


どうしたものかとぐるぐるに巻かれたネットを両手に抱えて考えあぐねていると
後ろから抱き抱える形でふわっとネットを奪われた。


ドキッと心臓が弾む。


恐る恐る振り返ると、那津が無表情で手際よくネットの紐を結んでいた。



(やっぱり顔だけはすごくかっこいい…)


那津の腕の中に収まる形で下から見上げる那津は、
正面から見たときとはまた別の顔だった。


「お前みたいなチビには無理だろ。」


(この口の悪ささえ無ければ…!)


しかし、一応助けてくれた事には変わりないので
芽依は渋々頭を下げた。



『…ありがと』



那津は少しだけ驚いた顔をして、でもすぐにいつもの無表情に戻ってから


「ん」


と返事をして、ネットから手を離した。


那津の腕から解放されて、また倉庫へと歩いていく那津の背中を見つめる。



(優しいんだか何なんだかわからない。
でも、あいつも意外と筋肉質だったな…)


半袖のシャツから覗く那津の腕。


朝、抱き留めてくれた先輩と同じように筋肉の筋張った
逞しい男の人の腕。


(って、何考えてんの私。
あんな最低な奴、優しい訳ないじゃん)


ぶるぶると頭を振って、先程頭に浮かんだ事を振り払って芽依も倉庫へ向かった。



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