
溺れる愛
第17章 社会人編スタート
『わぁ…もう9時だ。
すっかり遅くなっちゃったなぁ』
春先の夜はまだ冷える。
かじかむ身体を丸めながら一人、眠らない街をぶらぶらと歩いてみた。
なんだか今日は直帰する気分にはなれなくて
なんとなく家とは逆方向の道を進んでみる。
すると、しばらく歩いた先に一軒の目立たないけれど凄く落ち着いた雰囲気のバーを見つけた。
『……ちょっとくらいなら…飲んでもいいよね』
幸い明日は土曜日で会社は休みだし、終電までに帰れば問題ないよね。
そう思って、風情漂うバーの扉を開けた。
店内にはゆるやかなジャズのBGMが流れていて
バーテンダーが静かにいらっしゃいませと言葉をかけてくれる。
こじんまりとした店だけれど、凄く大人の雰囲気で
落ち着いている。
これなら静かに飲めそう……
私は誘われる様にカウンター席に座った。
カウンター席は5脚で、テーブル席が3席。
他の客は、金曜日なのに今は誰も居なかった。
「ご注文は?」
『えっと……カクテルは余り詳しくなくて…
店員さんのお薦めをいただいてもいいかしら?』
「かしこまりました」
ふぅと短く息をついて、私はバッグを足元に置かれた籠の中へと入れると、頬杖をついて
軽快にシェイカーを振るバーテンダーをぼんやりと見つめた。
すごい…手がうねうねしてる…。
そんな事を思ってしまう私は、その道の素人丸出しなんだろうな。
