
溺れる愛
第8章 夏休
俊哉は、差し出されたペットボトルを受け取ると
満面の笑みで
「ただいま」
と言って芽依の頭を撫でた。
『…あの…、えっと…』
それ以上の事は考えて無かった上に、俊哉に頭を撫でられて上手く頭が回らない。
「もしかして、ここでずっと待ってた?」
『あ…はい…。』
どうしても一番に先輩に会いたくてとは言えない。
「汗かいてる…日焼けしたんじゃない?」
『…たぶん…でも、大丈夫です…』
俊哉はグイッとスポーツドリンクを喉に流し込んで
「ありがとな、芽依。下から芽依が見えて、すげー嬉しかった。絶対最後まで走ってやるって思った」
この言葉で、全部が報われた様な気持ちになった。
『いえ…私も、先輩が一番で…嬉しかった…です…』
恥ずかしくて俯く芽依に、俊哉は優しい声を降らす。
「当たり前だろ?誰が他の奴に芽依とハグなんかさせるかよ」
またあのギャップのある笑顔で笑ってるんだろうなと心の中で照れる。
「…俺は…してもいい?」
その問いかけに、言葉で返事をするのが恥ずかしくて
ただ首を縦に振って返事をした。
『………っ』
「………」
そっと俊哉の腕が、芽依の肩に伸びてきた瞬間
誰かの足音で2人は反射的に距離を取って離れた。
そのままじっと見つめ合う。
「これも…続きはまた今度だな」
優しく笑う俊哉につられて
芽依もにっこり照れた様に笑って
『…はい』
と答えた。
