
溺れる愛
第8章 夏休
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どれくらい待ったかわからない。
だけど芽依は、ずっと旅館の入り口で皆の帰りを待っていた。
何度も顧問の先生や女将達に中に入れと言われたけれど
もし俊哉が帰ってきたときに
いちばんにお疲れ様と言ってあげたくて。
夏の容赦ない日差しを木陰で避けながらも
やはり照り返しがキツくて汗が流れる。
(きっと今日の晩はお湯がヒリヒリ染みそうだな…)
普段は日に焼ける事を避けているため
肌が赤くなってヒリヒリしてしまうだろうけれど
そんな事はどうでも良かった。
その時、旅館が建つ坂道の下から小さな人影が走ってくるのが見えた。
『…!』
よくよく目を凝らすも、逆光で見えない。
(…先輩…?)
じっとそちらを見つめながら、やがて近付いてきて
その輪郭をしっかりと目が捕らえた。
『…先輩……!』
そこには、汗を流しながら真剣な表情で
一歩一歩踏みしめて走る俊哉の姿。
そしてようやく旅館にたどり着いた俊哉は
そのまま座り込んで空を仰いだ。
『…先輩…っ!』
急いで側に駆け寄り、タオルを手渡して芽依も屈み込む。
はぁはぁと息を切らしながら、だけどどこか清々しい表情で、俊哉はニッと歯を見せて笑った。
「はぁ…はぁ…一番…だったろ…?」
その姿に、芽依は目が釘付けになってしまう。
(どうしよう…好きすぎる…)
タオルで汗を拭いながら肩で息をする俊哉に
よく冷えたスポーツドリンクを差し出して
『…お帰りなさい…お疲れ様です…』
ようやく言いたかった言葉を言う事が出来た。
