
溺れる愛
第8章 夏休
顧問の先生は、毎年恒例らしく
さっそく女将お薦めのお酒で晩酌を始めていた。
いつもこの強化合宿は、部長が仕切る事になっており
俊哉は慌ただしく指示を出して回っている。
どこか居場所もなく、ポツンと大広間に立っていると
その旅館の若女将が声をかけてくれた。
「まぁ…今年はこんなに可愛いお嬢様までいらしてたのですね」
『か、可愛いなんて…』
(こんな綺麗な人に言われると照れちゃうなぁ…)
若女将の着物姿は艶やかで品がある。
結ったそこから見える綺麗なうなじは、女の芽依でもかなり惚れ惚れとしてしまう程だ。
「不思議に思っていたんです。いつもはこの大広間だけの予約でしたけれど、今年はもう一部屋の追加があると聞いて」
にっこりと笑う若女将が、コソッと耳打ちしてくる。
「もしかして、誰かの恋人だったり…?」
その問いかけに、芽依は慌てて否定した。
『い、いえ!私はただのマネージャーでして…っ』
「まぁ。お顔が真っ赤ですわ。本当にお可愛らしい方」
若女将がいたずらっ子の様な仕草で笑ってみせる。
ただのマネージャーだなんて、自分で言っておきながら
少しへこんでしまいそうになるも
この状況こそ奇跡に近いと思って立て直す。
「お部屋にご案内致しますね」
『あ、はい…!』
恭しく芽依の荷物を手に取ると、綺麗な所作で障子を開けて部屋へと案内してくれた。
「こちらが本日より、新井様にお泊まり頂きますお部屋でございます」
開かれたそこは、一人で泊まるにはもったいない程の広くて豪華な部屋で
窓の外に覗く色とりどりの花が美しく、のどかな景色が一望出来た。
『こんなに良い部屋……』
思わず声も出せずに固まっていると
若女将がすかさずお茶を淹れてくれた。
「お褒めのお言葉をありがとうございます。
何かあればすぐに仰って下さいませ」
『あ、はい…ありがとうございます…』
また綺麗な所作で部屋を後にした若女将を見送って
芽依は部屋の中央に置かれた座椅子に腰掛けた。
(こんなに良い部屋を私なんかが一人でなんて…なんか申し訳ないな…)
どこか落ち着かなくて、出されたお茶を啜っていると
部屋の外から声がかかった。
