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溺れる愛

第8章 夏休





乗り込んだバスの中で、当然のように俊哉と隣同士で座らされた芽依は
部員からの質問責めに困り果てていた。



「芽依ちゃんってやっぱり川上と付き合ってんの?」


「いやもし付き合ってなくてもやっぱり川上?」


「てか彼氏とかいたりする?」



『あ、あの…っ』



(いっぺんに色々言われて訳わかんない…っ)



すると、横からすかさず俊哉がフォローしてくれる。



「おい、やめろよ。芽依が困ってるだろ」


「てゆーかお前いつから呼び捨てになったの?前はちゃん付けだったよな?」


「教えねーよ。ほら、もう前向いてろよ。酔っても知らねーぞ?」


「うわ、確かに山道ちょっとキツいかも…」



俊哉の一言でみんなが前を向いて座り直す。


芽依達を乗せたバスは、鬱蒼とした山道に差し掛かっていて
確かに乗り物酔いをしてしまいそうな道だった。



「ごめんな。大丈夫?」


『あ、はいっ…すみません…』



(てゆーか隣同士!!何このラッキーな状況!!
先輩が近すぎる!!)


今の芽依は乗り物酔いなど知る由もないかもしれない。


「さっきのやつ…俺も気になってるんだけど…」


『…さっき?』



俊哉の声に顔を上げ、横を見るとバチっと視線がぶつかる。



(う…格好良すぎる…)


また顔を俯けそうになると、俊哉の優しい声が降ってきた。


「芽依は…彼氏、いる?」



『え……』



【彼氏】はいない。


でも、すぐに頭には、あのぶっきらぼうな
変態悪魔が浮かんでしまった。


彼氏でもないのに、自分の身体を弄ぶアイツを─。



「……いるんだ?」


俊哉の声にハッとして、慌てて首を横に振った。



『いっいないです…!全然いないです…!』


(うっ…また変なこと言っちゃった…)



緊張から、変な日本語を話してしまう。

俊哉は安心した様に優しく笑って



「良かった」


と一言呟いた。



(ダメ…また…期待しちゃいそう…)


俊哉とはその後、学校の事や部活の事
何気ない話に花を咲かせた。




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