
溺れる愛
第8章 夏休
静かな図書室に大きく扉を開ける音が響くと
一斉に皆の注目を浴びる。
だけど今はそれどころではなくて
やはりそこに居た那津をすぐに見つけて駆け寄った。
『那津…!ちょっと来て…!』
小声だけど、早く大きな声を出したくて廊下へ催促すると
那津は面倒そうに腰を上げて渋々来てくれた。
「…なに」
『なにじゃないよ!凄い!那津が教えてくれたとこ全部出たよ!』
「あぁ…そうだった?」
『そうだよ!ほんっとうにありがとう!!さすが学年トップだね!』
「まー、俺があんだけ教えてやったのに90点とれない所がお前らしいけどな」
軽く嫌味を言いながらも、那津もどこか嬉しそうに感じた。
『それは…ごめんだけど…でも本当に助かったよ。ありがとう』
「give-and-take」
やけに撥音の良い英語に上手く聞き取れないでいると
「何でもするって約束、忘れてねぇよな?」
那津が意地悪く笑った。
(う…もちろん覚えてますけど…)
芽依はたじろぎながらも、うんと一言返事をする。
「何してもらおっかなー」
『…何をすればいい…?』
(変な事言われませんように!!)
心の中で強く願っていると、那津は少し声をこもらせて切り出した。
「夏休み…盆ぐらい、暇?」
『へ?』
てっきりエッチな事を要求されると思っていた芽依は
拍子抜けした様な変な声を出してしまう。
『えっと…まだわかんないけど…たぶん』
「じゃあちょっと付き合って。3日間泊まりで。」
『と、泊まり!?』
【泊まり】という言葉に敏感に反応してしまう。
どうしてそんな事をお願いするのかも解らない。
「お前に拒否権は無い」
最初、出会った頃に良く言われた台詞を聞いて
なんだか今は違った言葉にも思えてしまう。
「約束な」
那津は芽依の返事を聞く前に、図書室へ戻って行ってしまった。
(───泊まり…って事は…その…)
今度こそ、自分は那津と繋がるかもしれない。
それがやけに鼓動を速くした。
焦りと不安が全身を渦巻く。
俊哉との合宿。
那津とのお泊まり。
ドキドキの夏休みは、もうすぐ目前まで迫っていた。
