
溺れる愛
第2章 衝突
「おー来たか2人とも。これ、夏休みの注意書きの栞なんだけど、クラス全員分を冊子にして配って欲しい。」
ドサッと机の上に置かれたプリントの山を見て
芽依は愕然とした。
『嘘でしょ…これ何ページ分あるんですか?』
「20ページ」
(に…20ページって…!どんだけ注意することあるのよ!)
チラッと隣の森山の顔を見ると
彼は表情一つ崩さずに立っていた。
「今日の放課後、教室使わしてやるから
2人で頑張って明日までに完成させてくれよな」
『え!明日まで!?』
「悪いな。急な会議が入って先生手あいてないんだわ。頼んだ、新井、森山」
(う、嘘でしょ…今日は用事があったのに…)
『わかりました…』
渋々了承すると、先生は機嫌良さそうに2人を送り出してくれた。
クーラーの効いていない蒸し暑い廊下を歩きながら
羽織っていたカーディガンを腰に巻き付けて来た道を戻る。
『あれはさすがに今日中に終わるかな…。
森山くんは用事とかないの?』
少し先を歩く彼に言葉を投げかけるも
「別に」
またしても素っ気ない返事がかえってくる。
はぁ…と小さくため息をついて
芽依は憂鬱な気持ちを心に抱いた。
(放課後は…先輩の練習見に行きたかったのに…)
3年生のバスケット部の先輩は、
芽依が入学してすぐに一目惚れしたバスケ部キャプテン。
でも、そこまでしか知らない。
一度も話したこともなく、目すら合ったこともない。
名前も知らない相手。
だけど、本当に一目惚れで
彼が屋外のバスケットゴールに一人でシュート練習をしている所を目撃して、あまりの格好良さに目を奪われた。
一瞬で心を奪われた気持ちになった。
以来芽依はそれをこっそり盗み見るのが習慣になっていた。
彼は決まって水曜日に屋外でシュート練習をする。
そして今日は水曜日。
(楽しみにしてたのに…)
沈む気持ちに呼応するかのように、サァッと短く生暖かい風が廊下を吹き抜けた。
