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華のしずく~あなた色に染められて~

第4章 【華のしずく】~試練~

 信成が突如として立ち上がった。彼は珠々についてくるように促し、物見櫓の窓を覗いた。
「月が出ている」
 信成が呟き、上方を指し示す。その先を辿れば、漆黒の闇に星が散り、星たちに取り巻かれるように十六夜の月が宿っていた。
「きれいな月だ」
 信成が静かな声音で言った。珠々も良人にならって、月を見た。確かに、今宵の月は美しかった。そう、かつて、石榴の樹のある庭で二人して眺めた月のように。

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