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華のしずく~あなた色に染められて~

第27章 【月華-月姫(TSUKIHI)-~華のしずく~】幻の蝶

「殿とお逢いしたあのときも今夜のように月の美しい宵でございました」
 紺碧の空に滲んで見える蒼月(つき)は、あの夜のように丸かった。
 月姫はそっと白い指先で涙をぬぐった。
 ふいに視界の隅を蒼い蝶がひらひらと舞い、よぎったように思え、月姫は小さく首をを横に振った。しかし、一瞬の後、蒼い蝶はかき消すように姿を消した。それは、風一つない穏やかな春の夜更けが見せた束の間の幻であった。

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