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華のしずく~あなた色に染められて~

第27章 【月華-月姫(TSUKIHI)-~華のしずく~】幻の蝶

「殿」
 月姫は込み上げてくるものを押さえることができなかった。
 あの宵、月姫は秀信と桜の樹の下でめぐり逢った。ただ、この男(ひと)の側にいられれば、それだけで良い。そう願った月姫の心も空しく、二人を引き合わせた運命は今また、二人を引き裂こうとしている。
 月姫はゆるゆると立ち上がった。
 部屋の障子戸を開け、静かに縁に立つ。
 縁越しには、小さな庭が見え、淡い闇に白く浮かび上がる枝垂れ桜があった。

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