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禁断兄妹

第89章 禁断兄妹


萌は大きく息をつくと
視線を手紙に落とす。


「電話を終えた母は、その部屋に置かれていた父の棺を開け、電話の内容を父に教えてあげていました。そして、『何も聞かないでくれと言ったあなたの想いと、焼いて欲しいと言ったKENTAROさんの想いは、こうすることでしか叶えられない気がします』と言って、本当にこの手紙を、棺の中へ納めたんです」


一度は棺の中に納められた手紙
今は
萌のたおやかな手の中


「一部始終を聞いていた私は、焼いてはだめ、焼いてはいけないと、叫ぶような気持ちでいました。子供でしたから、深い考えがあった訳ではありません。よくわからないけれど、とにかくそんな大事なものを焼いてはいけない、取り返しのつかないことになってしまうと‥‥
 母がその場から離れ、違う部屋へ入った瞬間、私は棺に駆け寄って、無我夢中でこの手紙を抜き取り、そして逃げるように外へ飛び出しました‥‥」


そうか
あの時か

告別式の日の早朝
コンビニから戻って来た俺は
コートも着ずに外を歩いていた萌と会った
あれは手紙を抜き取った直後だったのか


「そしてお葬式は終わり、私は誰にも気づかれずに手紙を持ち帰ることができましたが、勝手なことをしてしまった罪悪感があり、中を読むことも誰かに相談することもできませんでした。焼いてしまうことは免れましたが、だからと言って当時十三歳だった私には、どうすればいいかわからなかったんです。
 それ以来ずっと、この手紙は私の部屋で眠り続けていたのですが‥‥私も、この手紙も、目覚めの時が来たように思っています」


顔を上げた萌
臆せずに
KENTAROを見つめる。


「偶然とはいえ会話を盗み聞きしてしまった事、棺から勝手に手紙を持ち出した事は、お詫びします。
 ‥‥でも、私はやっぱり、あの時焼いてしまわなくて良かったと、思っています」


萌は手紙を持つ手をKENTAROへと伸ばすと
一歩踏み出した。

微動だにしなかったKENTAROの身体が
仰け反るように揺れる。


「KENTAROさんも、そう思われませんか‥‥?
 今なら、この手紙を受け取って頂けるのではありませんか‥‥?」

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